祈りの彫刻家・佐藤守男 猪羽恵一 |
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脱乾漆技法は奈良時代に用いられた技法で、唐招提寺の鑑真和上や興福寺の阿修羅像がその一例である。塑土で原型を作り その上に麻布を漆で何度も塗り固めていくという、大変に時間と手間のかかる技法である。それだけに他にない深みと暖かみのある表現が生まれる。こうした難しく手間の掛かる技法を用いりながらも、技法だけに満足することなく、きわめて高い完成度で作品を仕上げている。 今回展示される乾漆像は、高い完成度を保ちながら、強い精神性をもっている。クリスチャンである佐藤守男にとって、聖書はメインテーマである。清貧を貫いたアッシジのフランチェスコをモデルとした《太陽の詩》、そして《空(くう)》や《メメント・モリ》《僕の詩(しもべのうた)》などがある。とくに人物像は何かを語りかけてくるような存在感があり、乾漆特有の質感がそれを引き立たせている。そして教会で立ち跪いて祈るときのような静謐な緊張感へと私たちを誘う。 ただ聖書はあくまでも信条のベースであり、表現はもっと多彩である。《欠けた月》は東洋的な香りを漂わせているし、《予感》は東洋的なものと西洋的なものを織り交ぜた感覚がある。そして《流星群911》は2001年ニューヨークの同時多発テロが題材である。少女の眼差しには現実社会と向き合いながら、未来を見つめる様々な思いが込められている。 (2006年6月2日了) |
2006年6月2日(金)〜6月10日(土)
INOHA Gallery